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[一時/いっとき]
深夜を廻った頃。
ふと地面に触れてみた。
ひんやりとしたアスファルト。
冷たい地面にぞっとした。
けれど、冷たいアスファルトは、じきにあたたかさを得る。
自らが緋くなるのと引き替えに。
私を冷やす代わりに、
私の熱を吸い取って流れたそれにあたためられて。
最後に観た私の視界に移るコンクリートはどうしても黒かったけど。
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貴方ノ語ル死ス~アナタ の カタルシス~
生きてること自体に“意味”なんて無いんだよ。
生まれたことにも生きてることにも死ぬことにさえ“意味”なんて無い。
『理由』は在るかもしれないけど、ね。
生きてる『理由』はね、死んだ後に在るんだよ。
死んだ後。
その[人生]に《価値》を与えるため。
消えるべきその[時間]に《存在》を残すために。
だから生きるのよ。
それが生きる『理由』。
二人だけの討論会、俺は溜め息を吐いた。
「────結局、あなたは死んだ先のことしか考えてないんだね」
パー・キング

[Par King of the king snake white]
白い蛇の王様“パー・キング”。
ホントはただの『パーキング』の[P]に“キング”の駄洒落で付いた王冠。
だけどそれでも。
きみは、白い蛇の王様“パー・キング”。
きっときみは白い蛇の王様なんだ。
Miracle at Christmas eve/1
聖夜の夜に人は賑わしい。
こんな寒いのに外へ繰り出す意味がわからない。───他人から見れば僕もその一人だ。
さっきから男女問わずナンパして来る人が煩わしいけれど、僕はなぜかここから離れられない。なぜだろう? 僕は首を傾げながらただ待ち合わせの定番と化した駅前広場で立ち尽くす。
と、途端誰かにぶつかった。
「あ、ごめ……」
「……すみません」
昏かった。その人物は、この浮かれ騒ぎ敬虔な気分など忘れ去った世界で異質な程昏かった。
足取りはしっかりしているけれど、そのはずだけど、随分危なっかしく見える。……いや、『視える』。
「……付いて行かなくて良いの?」
僕はいつの間にか隣りにいる少女────若く見えるが実は女性が正しいようだ────に声を掛けた。彼女の足は、地面から優に五十センチは上に在った。
地面から離れそこにふわふわしている彼女が、この世のモノで有るはずが無い。さて。
先の彼の確かなくせに覚束ない歩き方の原因は彼女、か。
僕は再度問うてみた。彼女は首を横に振る。しかし彼が消えた先を、未だ案ずる表情で見詰めている。僕は尋ねた。
「心配なのに、離れて良いの?」
彼女は僕に顔を向け、喋らず微笑んだ。
泣くのを我慢した、笑いだ。彼女は喋らないのではない。喋っても“音”にはならないだけだ。
まぁ僕には聞き取れ得るけれど。
“────……”
僕がそう考えた瞬間、タイミングを計ったように。彼女が、お喋りをし出した。
「僕に行けって言うの?」
“────”
「僕は慈善家じゃないし、偽善者でもない。聖職者でも、ないんだけど」
“……───!”
「……必死だねぇ……。────きみから離れた男なのに」
“……”
彼女の動きが一瞬止まる。僕らの会話は周囲に気取られもしないだろう。周りは自分たちを主役にはしゃぐのが精一杯で、突っ立って見えざるモノに囁く人間には注意しない。
ま、僕も自分を『人間』と称するには些か疑問は残るがね。
やがて彼女が口を再び開いた。
「……わかったよ」
僕は彼女が、今までとは違う笑みを、それこそ満足したみたいに心からするその顔を見て。それから消えた彼女を見届けて。
彼女が僕へ残した彼の残滓を追い足早に騒々しい広場を後にした。
Miracle at Christmas eve/2
途中、お洒落なケーキの有名店に入りケーキを買った。クリスマスイヴに、可愛らしいケーキを持って見知らぬ家路を急ぐ。日は沈み切って、もう日付が変わるまで時間が無い。
まったく。肉体労働は専門外だよ。僕は舌打ちをしたい心持ちになりながらも歩調を決して緩めない。
しばらくして、一つの大きなマンションで僕は止まった。外観はレトロチック。外装だけだろうが煉瓦作りの壁と、ステンドグラスではないけど綺麗な色付き硝子の入口。セキュリティは万全らしく、パネルと電子ボードが壁に付いてる。───僕には一切関係ないけれど。
パネルに触れる。操作するためでは無い。触るだけだ。が。
僕は普通にエントランスに入った。僕に暗証番号も鍵も必要ない。手間すら無い。僕にとっては、在って無いモノなんだ。
マンションに入ると、僕は真っ直ぐ目的地を目指した。エレベーターに乗り階のボタンを押す。幸いにも合間に邪魔は入らず、僕は目的の階まですんなり行けた。
部屋の前で取っ手に手をやり。僕は眉間を寄せた。
……泣いていた。先程の彼が、堪え切れずとうとう足を縺れ崩れさせ、座り込んでしまっている。玄関で、ドアに背を預けて。僕は溜め息を吐いたが気を引き締め直した。引き受けたのは、僕なんだ。
男に二言は無いとか、女は度胸とか、他人はよく口にしてる。心境としてはそれに近い。僕には性別なんて関係ないけれど。
腹を括り取っ手を動かした。ドアを開けるためだ。勢い良く、引く。
……何でドアって外側が開くんだろうね。
「……な、」
背凭れを無くし、後ろに転がり掛けたのを何とか態勢を保ち続けて堪えている。その振り返った顔に、涙の跡を見付け、嘆息。でもすぐ切り替え。
「メリークリスマス。彼女からお届け物です」
出来るだけにこやかに笑顔を作り、ケーキを差し出す。彼は「……はっ?」と呆けたままだ。
仕方ない。
頼まれてしまったんだもの。
僕は暇人で、彼女はもう体が無い。僕は彼女の語らない過去が視えてしまったし。
若年性アルツハイマーを患った彼女は、彼から離れた。彼は彼女を追わなかった。
治療してると思った彼女が自殺したのを彼が知らされたのは秋。彼は愕然とした。
不毛だと思う。不毛でしかないと。